新しい日本のために ・・・発刊のことば

古い日本は影をひそめて、新しい日本が誕生した。生まれかわつた日本には新しい國の歩み方と明るい幸福な生活の標準とがなくてはならない。これを定めたものが新憲法である。

日本国民がお互いに人格を尊重すること。民主主義を正しく実行すること。平和を愛する精神をもつて世界の諸国と交わりをあつくすること。

新憲法にもられたこれらのことは、すべて新日本の生きる道であり、また人間として生きがいのある生活をいとなむための根本精神でもある。まことに新憲法は、日本人の進むべき大道をさし示したものであつて、われわれの日常生活の指針であり、日本国民の理想と抱負とをおりこんだ立派な法典である。

わが国が生れかわつてよい国となるには、ぜひとも新憲法がわれわれの血となり、肉となるように、その精神をいかしてゆかなければならない。実行がともなわない憲法は死んだ文章にすぎないのである。

新憲法が大たん率直に「われわれはもう戦争をしない」と宣言したことは、人類の高い理想をいいあらわしたものであつて、平和世界の建設こそ日本が再生する唯一の途である。今後われわれは、平和の旗をかかげて、民主主義のいしずえの上に、文化の香り高い祖国を築きあげてゆかなければならない。

新憲法の施行に際し、本会がこの冊子を刊行したのもこの主旨からである。

昭和二十二年五月三日  憲法普及会会長 芦田 均


あとがき

 この「新しい憲法 明るい生活」は当時の政府が新憲法の普及活動を行うため国会決議を経て、一九四六年十二月一日「新憲法の精神を普及徹底し、これを国民生活の実際に浸透するよう啓発運動を行うこと」を目的として設立された「憲法普及会」が憲法施行日の一九四七年五月三日に発行したものです。

憲法普及会は公布後一年間にわたり公務員など新憲法普及活動を行う人々の教材として発行した「新憲法講話」、「新憲法の成立」など五本の映画製作、サトウハチロー作詞、中山晋平作曲の「憲法音頭」のレコード化など利用可能なメディアのほとんどすべてを動員し、憲法普及のための活動を展開したとされています。

「新しい憲法 明るい生活」は直接国民への普及を図るため、全国各家庭に配布するため刊行されたもので二千万部印刷されたと記録にあります。

この冊子は中居が二〇〇六年十月二一日大阪四天王寺の骨董市で手にいれました。インターネットで調べてみると国会図書館と立命館大学の平和ミュージアムに現物があります。(両方とも寄贈)


さらに、全商連新聞の二〇〇五年七月四日号には長野の平和委員会が復刻・普及活動をしているとの記事もありました。

一九四七年八月文部省が中学一年生用の教科書として発行された『あたらしい憲法のはなし』は一九七二年に日本平和委員会が復刻版を出し、重版されています。

今年は、憲法が施行されて六〇周年です。安倍首相は年頭の所感で七月の参議院選挙の争点は「憲法問題」だとしています。

まさに、六〇年前、国をあげての「新憲法」普及の運動をうわまわる「憲法改悪阻止」の運動がもとめられています。

憲法普及会会長の芦田均氏の発刊のことばは、憲法の真髄を語ったものとしては今日においてもなお光り輝いています。

新しい国作りの意気込みと、新憲法の特色を「私たちの生活はどうなるのか」という視点から解説しており、「教科書」とは違った意味で意義のある文章だと考えみなさんの活用を願って「復刻版」を作成しました。

二〇〇七年一月二十日
大阪婦人労働者問題資料室
中居 多津子
林  裕 子