くらしと憲法

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大阪は
   くらしのなかのすみずみに
     絹布の理想生かしゆく町
                大阪府知事 黒田 了一


 

もくじ

●憲法をくらしのすみずみに……………1
●たくましいエネルギーを………………6
●府政の目標と方向………………………8
●日本国憲法(全文)……………………11
●地方自治法(抄)………………………47
●教育基本法(全文)……………………53
●児童憲章(全文)………………………58
●同和対策事業特別措置法(抄)………60
●大阪府自然環境保全条例(抄)………65
●48年度一般会計当初予算(グラフ)…77
●大阪府のテレビ・ラジオ広報…………79


 


「憲法をくらしのすみずみに」

●憲法の三つの原理

 憲法について考える場合、なによりもまず、私たちは抽象的、一般的な次元で憲法を考えるのではなく、歴史的、具体的な条件のなかで、そして憲法の理念や性格とのかかわりあいのなかで憲法を理解することが心要です。この見地からすると、憲法は、過去の封建的な諸制度、つまり生まれながらの身分によって人間を差別するという制度の不合理さを克服して、すべての人間が自由で平等に生きることを保障するという制度の確立がもとめられてくるわけです。
この歴史的な機運のなかで近代憲法は登場してきたのです。ですから、人間の自由と権利を保障することこそが、憲法の生命であります。

 そして、人間の権利を保障するためにはどうしても民主的な政治制度がともなわなければなりません。そこから近代憲法は、人権尊重ということと政治の民主的な運営のルールを確立するという、いわば自由を中心とする人権と民主的な政治体制とのだきあわせとして歴史に登場してきたのです。

 ところが、自由で民主的な社会という私たちの理想はつねに裏切られつづけてきました。ひとたび戦争がはじまれば、あるいは戦争の準備がすすめられるだけでも自由は制限され、政治は必ず独裁制への道をすすんで行きます。世界の人々はこのことをいやというほどにがい思いでくりかえし体験してきたのです。そこで20世紀に入り、とくに第1次大戦、第2次大戦を通じて、自由で民主的な社会の維持は平和であってはじめて可能だという自覚が高まり、その結果新らしい憲法の多くは、自由の原理と民主主義の原理のほかに第3の柱ととして平和主義の原理をつけ加えたのです。そして、わが日本国憲法はとくに平和の柱が第一の原理として、それが全編をつらぬいており、とくに第9条で全面的な戦争放棄を規定しているところに特色があり、それゆえに平和憲法ととくに呼ばれております。

 そうした意味で、憲法を暮しに生かすということは第一に平和を維持することであり、第二に民主主義を確立することであり、第三には基本的人権を徹底的に尊重するということです。

●住民の生命と健康を守る

 このことを地方自治との関連でみると、まず平和の問題は、主として国の国防、外交と関連する問題ですが、地方自治体としても軍国主義的な風潮にまきこまれないように、きびしくこれを批判しながら、あくまでも平和な社会を建設するようにしなければなりません。

 第二の民主主義に関しては、いわゆる中央直結、大資本本位といった官僚主義的な行政ではなくして、住民の心を心とする人間尊重、福祉優先の立場にたった地方行政を民主的に運営すること、つまり「住民と共に考え、共に歩む」姿勢を確立することが肝要です。

 第三の人権尊重については、すべての住民が人間らしい生活ができるようにきめのこまかい行政を推進するということです。そのためには、住民一人一人が快適な自然の環境のもとで生活する固有の権利があるということを認め、そしてこの権利が侵害された場合には自から防衛する権利もまた保障されねばならないということです。

 こんにち、さまざまな生産活動によって大気が汚染せられ、水質が汚濁せられ、騒音が発せられ、あるいはカドミウムなどがたれ流しにされることによって、いわゆる公害問題が大変激化しています。この公害をストップさせ、そしてわれわれの住む町がゴーストタウンにならないように全力をあげることが住民のいのちと健康を守る第一の重点目標です。第二は、私たちが毎日口にする食物が残留農薬、食品添加物などによってけがされ、安心して物を食べることができない状態を一日も早くあらためるということです。さらに第三は、私たちの健康がむしばまれたときに、あるいはむしばまれないようにするために正しい治療をうけ、また充分な看護がうけられるような医療行政、看護行政を確立するということです。

●人間らしいゆたかな暮しを

 住民のいのちと健康を守るということと同時に、もっと豊かな暮しができるようにしなければなりません。そのためには物価、税金、住宅などの問題の解決が心要になってきます。このことは一地方自治体の知事の権限でなしうることには限界があります。しかし、その力によってインフレ政策を改めさせ、府民の経済生活に何らかの寄与ができるのではないかと考えます。

 さらに、私たちが青い空ときれいな水と緑の大地のなかで比較的豊かな生活ができても、私たちの気持がすさんでいたのでは何にもなりません。そのために、教育と文化の向上により、またスポーツの振興によって青少年が本当に生きがいをもって生活できるように、民主的な教育行政の確立とスポーツ施設の充実をはかっていかなければなりません。

 また世の中の進歩にとりのこされている病人、貧困者、老人、身体障害者などに対しても、本当に血のかよった福祉行政をおこなわなければなりません。そうした人々に人間らしい生活ができるように保障することが憲法の精神であると考えます。

 憲法を学び、憲法を講じてきたものとしてこの憲法の理想を日常の暮しのすみずみまで徹底的に生かしきるために全力を捧げたいと思います。

(知事)


成人祭によせて

「たくましいエネルギーを」
(昭和48年1月7日、府立青少年会館における大阪府成人式での知事あいさつから)

 みなさん、ご成人おめでとう。今年、府下で新しく成人になられたかたがたは、およそ14万人でありますが、今日は、そのなかから1千人のみなさんをここにお迎えし、第21回大阪府成人祭を開催いたしました。

 みなさんは、それぞれに、たくましくすがすがしく成長され、いま晴れて成人として洋々たる前途への第一歩をあゆもうとなさっているわけであります。
 皆さんは、すでに法律的にも、制度的にも、ひとりの公民として、幅広い自由と権利を保障されるようになりました。

 と同時に、これらの諸権利を正しく行使して、社会の発展に寄与すべき義務と責任が加わったのであります。

 日本国憲法は、まさしく、国民固有の権利として、基本的人権の保障をその全面に打ちだしているのであります。しかしながら、私たちの周囲を見渡すとき残念ながら多くの矛盾と悩みに直面している現実に目をそらすことはできません。

 外に戦火がいまなお絶えず、内に公害、交通事故、社会福祉の立ちおくれやかずかずの社会的差別など、解決を迫られた問題が山積みした現実の社会は、憲法の理想とする「自由で民主的で平和な社会」の実現には、まだ程遠いと申せましよう。

 ここに新らしい門出を迎えられたみなさん、この現状を直視していただきたい。そして、自らの権利を行使し、義務を果すことを通じて、社会の矛盾を打破し、その発展に寄与するため、勇気をもってつきすすんでください。今日の社会は、たくましくはつらつとした若者のエネルギーを必要としております。みなさんがそれぞれの個性と能力を発揮して、直接、関接に政治や社会活動に参画し不断の努力をもって前進されんことを心から望んでおります。

 さいごに、みなさんが、この成人式を契機として、たゆまざる精進をもってみのり多い人生を獲得されるよう切にお祈りしてあいさつといたします。


府政の目標と方向
(昭和48〜50年度施策方向)

●公害、交通事故、災害から府民のいのちをまもるために

・公害をなくすため、行政と科学技術の総力を結集して、人間優先の立場から多角的な施策をすすめる。当面、きびしい発生源規制、産業廃棄物の処理、下水道の整備などを強力にすすめる。

・大阪の自然をまもり、回復するため、自然の保護と回復をはかる基本方針を策定し、関係法令をフルに活用して、自然破壊行為者にきびしい規制を行なう。また、自然回復のための施策を積極的にすすめる。

・歩行者事故の防止を最重点にし、安全施設、の整備をすすめるほか自動車交通の規制強化をはかる。

・不時の災害から府民のいのちをまもるため、地震や火災、水害に備えた都市防災対策の具体化を急ぐ。また、防犯体制の整備をすすめる。

●府民のくらしと健康をまもるために

・健康で生きがいのある豊かなくらしをすべての府民にゆきわたらせるため、温い血の通った福祉施策をキメ細かくすすめる。とくに老人や母子家庭、心身障害者(児)などめぐまれない人たちの福祉向上に力を入れる。

・保健所、病院などを拡充するほか、成人病、救急医療、母子保健などの対策を充実する。

・消費生活の安定のために府が出来る対策を検討実施していく。

・同和対策については、大阪府同和対策審議会の答申の趣旨を尊重して、その推進をはかる。

●教育・文化の充実、振興をはかるために・府立高校の大幅増設、私学に対する助成、社会教育活動をすすめる。

・1小学校区1保育所を目標に、保育所の大幅増設をはかる。
・文化財の保護、伝統文化の振興、府民の自主的な文化活動の振興をはかり幅ひろい文化振興対策をすすめる。

●働らきやすく、住みよい都市づくりをすすめるために

・新住宅建設5ヵ年計画(46〜50年)をすすめ、住宅規模の改善、住宅難の解消をはかる。
・新らしいまちづくりのため、生活道路、公園緑地、上下水道などの整備をすすめる。また、大量輸送機関の整備を促進して交通の便をはかる。
・水源確保のため、びわ湖をはじめ水資源の開発を促進する。

●商工業・農林漁業の振興をはかるために・中小企業、地場産業の体質強化をはかる。また、大都市近郊の特性を生かした農林漁業の振興対策をはかる。

・ヤングタウンなど働らく者の福祉施設の整備をすすめる。また、中高年令者、身体障害者の就業促進や未組織労働者の福祉向上をはかる。


 大阪府知事室広報課
 昭和48年5月

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