中居 多津子
自治労大阪府本部婦人部長、大阪府職員労働組合婦人部長
(賃金と社会保障 '77年婦人労働読本)
今日の深刻な経済危機のもと婦人労働者にかけられている攻撃は、いっそう鋭く、また、全般的なものになってきている。
自治体に働く婦人もその例外ではなく、とりわけ、未曽有ともいわれる戦後最大の地方財政危機のなかで、自治体に働く婦人労働者にかけられている攻撃の主なものに、(1)退職勧奨にあたって男女の年齢差、夫が管理職の場合、有夫の婦は35歳、結婚、出産など様々な理由によって、中高年婦人をはじめ既婚婦人を中心に実質的な退職の強要。(2)女子不採用、雇用差別による自治体職場からの婦人のしめだし。(3)そして大企業本位、住民きり捨て政策による「合理化」の進行があげられるのではないだろうか。
こうした攻撃は、都道府県、政令都市、市町村と自治体の行政内容の差異、職員構成の差異(婦人の職種は、都道府県レベルで30数種、市町村レベルではその半数以下といわれている)、また、保守自治体と革新自治体、「さらには、その自治体の労働組合が、自治体労働者の労働条件の改善と住民要求とを統一的にとらえるか、労働条件を第一義としてたたかいをすすめるのか、といったさまざまな条件や要因によって、攻撃のあらわれ方もちがっている。
そして、先にあげた攻撃を全体として許していない自治体が少なからずあるのも特徴の1つである。
公務員労働者には、定年制がなく、退職勧奨という制度が存在している。
この制度は、地方公務員法の身分保障を基本として、あくまでも「任意による退職者」にたいする制度であることは明らかである。しかし、自治体当局に一方的に悪用されることになれば、実質的な定年制の導入であり、さらにすすんで第1表のように、婦人にたいして勧奨年齢を引き下げ、それを強要している実態は、首切り以外のなにものでもないだろう。
自治体職員の3分の1は婦人であるといわれている。しかし、この数字は、看護婦、保健婦、保母といった婦人に限ぎられている職種もふくめた数字であって、一般行政の分野での婦人の数はきわめて少数である。
採用時における差別の問題は、昨年の国際婦人年のなかで国家公務員の行政事務Bの実態が国会審議でもとりあげられたが、自治体における地方公務員の実態は、労基法の女子保護規程を名目としながら婦人を極端に少なく採用することがねらいとなっている。
この採用区分制度の導入が都道府県庁レベルで60年代後半から70年代前半に集中していることは、婦人労働者の増加ともあいまって、自治体職場から婦人をしめだすことをねらいとしているのは明らかであり、自治労の調査では、都道府県庁で初級行政職採用時におけるA項B項の区分を実施しているのは17県にのぼっている(調査は31都道府県)。そしてこの傾向が市町村へと広がりつつあるのも大きな特徴といえるだろう。
こうした動きにたいして、昨年の国際婦人年の運動のなかで、大阪府、大阪市、横浜市においてはその制度の撤廃をみたが、一方地方財政危機の名のもとに、職員そのものを採用しない、採用区分の制度はないが実質的には女子を採用しないなどの実態がここ数年広がりを見せている(自治体の調査では第4表の通り)。
第1表 退職勧奨に8歳以上の年齢差をつけているところ
第2表 男女差別の対象勧奨の主なもの
第3表 一般行政職採用において区分を設けている自治体
第4表 女子採用の実態
自治体における「合理化」といった場合、現業部門の民間下請化や給食センター方式の導入、病院部門の独立採算制、保健所の統廃合など常に住民サービスを無視し、大企業本位、地方自治破壊の方向がつらぬかれており、直接住民と接する部分にそのことが進行しているのが大きな特徴といえるだろう。
こうしたなかで住民需要の増大ともあいまって事務量の増大、労働密度の高まりのなかで母性と健康の破壊がいちじるしく進行してきている。
職業病といえば保母のけいわん障害、腰痛症、キイパンチャー、タイピストのけいわん障害が代表的なものといわれていたが、今や自治体職場においては、給食調理員の洗剤使用による皮膚障害、看護婦の血液採取の注射器の扱いによるけいわん障害、一般事務職の目の疲れなど労働密度のたかまり、労働強化によって、新たな職種、職場というより、ほとんどの職種、職場において仕事に起因する健康の破壊がすすんでいる。
これらの実態の把握は自治労全体として十分でなく、他の調査にくらべ質問項目の設定から調査方法、分析についても専門的知識を必要とすることから、その傾向を正しくとらえた調査は少ない(編集部注−本誌11月上旬号を参照して下さい)。
自治体に働く婦人労働者は40万を越え、そのうち自治労に結集しているのは35万に達するといわれている。
自治体の婦人労働者の諸権利の水準は労基法を大きく上回っており、国の人事院規則の定めによる国家公務員のそれよりも部分的に高い水準にある。これは、地方公務員法第24条の6(職員の給与、勤務時間その他の勤務条件は、条例で定める)を基本として、各単組の今日までのたたかいのなかで大きな前進がかちとられてきたものである。
こうした労基法の基準を上回る実績とともに、労基法には明記されていない要求(妊娠障害休暇、妊産婦の通院休暇、妊婦の時差出勤など直接的な母性保護)についても実現させてきている。
これら前進をみた諸要求は民間をもふくめた要求課題になりつつあり、婦人の諸要求前進に一定の役割を果たしてきたのではないだろうか。
しかし、自治体間の格差のひろがりもみのがすことのできない問題であり、町村レベルでは人事院規則に定められた項目が制度として確立をしていないところも数多くある。こうした状況のなかで、いま自治体の婦人運動のなかでのもう1つの特徴は、「子看休暇」「看護休暇」「予防接種休暇」「参観休暇」「更年期障害休暇」「育児時間の期間延長」といった70年代前半にごく一部の自治体で制度化をみた要求が全体としての運動になりきれずに、その後も全国的に前進をみることのないままになっていることではないだろうか。
生活環境の悪化、社会的条件の不備、労働環境の悪化がいちじるしいこと、婦人労働者の増大、年齢層の拡大等があいまって、自治体職場にかぎらず婦人の要求は多様化してきているといわれている。
自治体の職場においても、一般的な労働条件改善の要求から、地方自治を守る課題や住民の立場にたった行政の推進、自治体労働者の任務と役割が大きく求められてくるなかで、自治体に働く婦人労働者は仕事の問題をもふくめ様々な要求をかかえている。
しかし、要求が多様化してきているといわれているが、多様化の中身は何なのか――ただ単にそれぞれの要求を個別に羅列することによって、要求の多様化というとらえかたにとどまっているのではないだろうか。そして、要求解決にむけても、婦人に責任ある仕事があたえられないことをとらえて“男女差別をなくせ”と叫びつづけている実態や、中高年層婦人からだされた「更年期障害休暇」(あえて「 」をつけておく)についても切実であるからと、即「休暇」要求としてたたかいをすすめているという実態は、要求の多様化に対して一見対応しているように見えるが、その要求の背景にある根本的原因にするどくせまったたたかいが組織されているといえるだろうか。
たとえば、婦人の更年期障害についても、その現われかたは人によってさまざまであり、その対策が休暇だけで解決するとは考えられないし、職場に存在している男女差別の解消についても、古い社会通念だけの問題としてとらえるのでなく、それを解決できる条件をかちとってゆく要求(研修の機会を婦人にももっと与えてゆく、採用を多くし、婦人が仕事にたずさわる状況をつくりだす等)をかかげて運動をすすめることも必要となっているだろう。
自治労大阪府本部婦人部
中高年層のはたらきつづける婦人が増加をしてくるなかで更年期障害に対する措置要求が強まってきています。
このことは、職場環境の悪化、労働密度の高まり通勤時間の延長、精神疲労等さまざまな要因が考えられます。
更年期における障害や症状はさまざまであり、また成人病の症状と重複してあらわれる場合が少なくありません。
このようななかで、更年期に達した人はまず成人病のあらゆる症状にてらし、それに該当しないものについて更年期障害としてとらえているというのが現状です。
こういう現状のなかで、私達はまず成人病に対する徹底した予防の立場にたって成人病に対する健康診断(人間ドックも含む)の充実を使用者の責任で行わせること、第2には、更年期障害の治療について、更年期障害の特殊性から、長期にわたって通院加療の必要なものに対する措置、自宅療養、安静さらには業務軽減の必要なものに対する措置等個人、症状によってさまざまな対応が必要となってきています。また症状についても長期にわたるものと、断続的なものとさまざまです。こうしたなかでこれらに対する措置としていま職場では「更年期障害休暇」の設置要求が強まってきています。特に婦人の場合更年期は男性とちがってその時期が集中してあらわれるのが特赦です(2〜3年)。以上のような考えの上にたち私たちは次の立場で運動をすすめます。
(1) 更年期障害は疾病(疾患)としてとらえること。
(2) さまざまな症状に対応できる内容としていくこと(特休、病休、通院保障)
(3) 男性も含めた要求としていくこと。
また、先にふれた「子看休暇」、「看護休暇」、「参観日休暇」等の要求についても医療制度、社会保障制度改善、教育の民主化運動と結合させるなかで、企業内要求をどのように位置づけるか、「育児時間の期間延長」についても労基法規定の授乳時間の規定を打ち破ることができずにいるといった現状を見るとき、労働組合として要求の多様化をたんに抱括的にとらえるのでなく、要求があることは否定できないが、要求の性格を明らかにし個々の要求についてもっとつっこんだ論議とその整理――理論化が求められているのではないだろうか。
以上のような、攻撃、状況、要求のなかで労働組合運動として、婦人の権利を守り、自治体に働く婦人労働者としての様々な要求の解決をはかると同時に、自治体労働者として真に住民の立場にたった行政をすすめる担い手としての役割の追求が求められているとき、運動の方向や進め方についても具体的に、しかも全労働者の課題と結びつけ、婦人の問題を婦人だけのものとしておかずに、大きな運動の展開が必要だろうし、また自治体労働者は、全国のどんな小さな町や村でも組織をもっているという有利さから、その中心部隊としての運動が求められているのではないだろうか。
大阪における運動のなかでは、婦人の諸権利の水準は自治労のなかにおいても高い水準を勝ちとっており、その特徴は、大阪府下44の自治体でほぼ同レベルにあることである。
このことは、つねに要求討議を徹底しておこなうことに加えて、討論の到達点を全組合員のものにしていくことにかなりの力をそそいでいることにある。たとえば、更年期障害の措置要求にたいする考え方や、育児休暇制度の位置づけなどについても指導機関(常任委員会)で討議し、一定の考え方を示し、1年間の下部討議を行なうといったやり方。
こうしたなかで大阪においては、健康管理や健康診断の内容の充実、育児休業法の条例化についても多くの自治体において全職種適用、職種の拡大を勝ちとってきている。
地方財政危機のなかで、今日の自治体労働者の運動は、今日までの運動の概念を打ちやぶり、行財政の点検や見直し、民主的行財政機構の改革といった、自治体行財政そのものにたいする運動が展開されようとしている。
婦人運動の分野においても、こうした課題に積極的にとりくみながらも、婦人の権利拡大をかちとるためのねばりづよい運動も今まで以上に重要となってきている。しかし、労働組合における婦人運動も、今一度要求討議に徹底した力をそそぎ、その理論的整理が必要ではないだろうか。
たたかいの前進は、婦人のたたかうエネルギーの結集とともに、たたかいの方向や道筋が明らかにされ、そのたたかいの力と大きく結合されたときこそ展望がひらけてくるのではないだろうか。